損害賠償の基礎知識

交通事故によって他人に損害を与えた場合、加害者は被害者に対して、民事上の責任である「損害賠償責任」を負わなければなりません。

ここでは、損害賠償の概要を説明します。

損害賠償の対象は?

ひとくちに損害賠償といっても、事故の種類によって損害賠償の対象は違ってきます。

これは実際の事故を考えてみると分かりやすいです。

事故の種類

たとえば、車同士が軽く接触して車体にかすり傷が付いた事故と、車が人を跳ねて重症を負わせた事故では、損害を受けた対象(車あるいは人)が異なります。

では、事故はどのように種類分けされるかというと、
・死亡事故
・傷害事故
・物損事故

の3つに分けられます。

それぞれの事故について、損害賠償の内容は、財産に対して被害を受けたのか、あるいは精神的に被害を受けたのかによって、「財産的損害」と、「精神的損害」に分けられます。

さらに、財産的損害には、交通事故によって財産が減少したという損害「積極損害」)と交通事故によって利益を得られなくなったという損害「消極損害」)があります。

精神的損害に対する賠償とは、精神的苦痛を受けたことに対する賠償で、一般的に慰謝料と呼ばれているものです。

これらで分類すると、事故の種類ごとの損害賠償の対象は下の表のようになります。
なお、事故の種類ごとの詳しい内容については、別ページ(死亡事故傷害事故物損事故)を参照ください。

事故種類ごとの損害賠償の対象

死亡事故 傷害事故 物損事故
積極損害 ・ 死亡までの治療費
・ 葬儀関係費用 など
・ 治療費
・ 通院費、入院費 など
・自動車の修理費用
・代車使用料 など
消極損害 ・ 逸失利益 ・ 休業損害
・ 後遺傷害による逸失利益
(なし)
精神的損害 ・ 慰謝料 ・ 慰謝料 (なし)

損害賠償を請求できるのは誰?

損害賠償を請求できる権利を持っている人は、本人・相続人・近親者となります。

・直接の被害者(本人)
交通事故により被害を受けた本人は損害賠償を請求する権利があります。

ただ、被害者が未成年の場合は、親などが法定代理人として、本人に代わって相手方に請求することとなります。未成年以外にも、認知症や精神障害等で成年後見人がついている人の場合は、成年後見人が請求することとなります。

本人が重大な後遺障害を負い、意識がない場合などは、自分では損害賠償請求の手続きができないので、近親者が代わりに請求することになります。

・相続人(死亡事故の場合)
死亡事故の場合には、被害者本人が亡くなっています。
この場合は、損害賠償を請求する権利は消滅するのではなく、相続人に相続されることになります。

つまり、死亡事故の場合には、被害者の相続人が損害賠償を請求することになります。

・近親者
配偶者・父母・子どもといった近親者であれば、被害者となった身内が亡くなったり、重大な後遺障害を負えば、大きな精神的ショックを受けることは想像に難くありません。

そこで、民法では、死亡事故や重大な後遺障害事故の近親者には、損害賠償を請求する権利のほかに、本人とは別にその人固有の慰謝料を請求する権利が認められています。

さらに、内縁の妻にも固有の慰謝料を請求する権利を認めた裁判例もあります。

損害賠償責任を負うのは誰?

交通事故により、あなたが損害を被ったときに、誰がその責任を負うのでしょうか。
あなたが、損害の賠償を請求すべき相手は誰でしょうか。

損害賠償を請求する相手は誰?

まず、事故について過失のある運転者が責任を負うのは原則です。

しかし、運転者にしか責任を追及できないとすれば、運転者が保険に入ってなかったり、経済力がない未成年であったりした場合には、実質的に損害賠償を受けることができなくなるでしょう。

そこで法律では、以下の者たちに損害賠償の義務を負わせています。

1. 交通事故を起こした運転者
2. 交通事故を起こした運転者の使用者、つまり雇い主
3. 運行供用者―自己のために自動車を運行の用に供する者をいい、車の所有者などがこれにあたります。(人身事故の場合に限る)
4. 交通事故を起こした運転者が未成年だった場合の親

過失相殺という考え方

損害賠償の制度は、そもそも被害者が背負うこととなった損害(財産的損害や精神的損害)について、原因を引き起こした者にも公平に負担させるという「損害の公平な分担」という考えに基づいた制度です。

民法ではさらに、この「損害の公平な分担」の考えを推し進めて、「過失相殺」という制度も用意しています。

過失相殺とは、被害者にも過失があった場合は、その過失の程度に応じて、損害賠償額を減額するということです。
具体的には、加害者の過失と被害者の過失を割合で把握して、その割合に応じて損害賠償額の調整をしていくことになります。

例えば過失割合が、加害者が9割、被害者が1割であれば、損害賠償額が満額から1割減額されることとなります。

時効について

ここまでの説明のとおり、基本的に、被害者は加害者に対して損害賠償を請求する権利を持ちます。
しかし、一定の期間、権利を使うことなく放置していると、時効が成立してしまい、権利が消滅してしまいますので注意が必要です。

時効成立とともに権利は消滅する

交通事故の損害賠償請求権についての時効は、次のように定められています。

・加害者に対する損害賠償の時効
加害者が誰であるか判明している場合は事故から3年間、
加害者が誰であるか後日判明した場合は加害者を知ったときから3年間、
加害者が誰だかわからない場合は事故から20年間
となっています。

・自賠責保険会社に対する保険金請求の時効
原則は事故のときから3年間ですが、
死亡事故の場合は死亡した日から3年間、
後遺障害が残った場合は症状固定の日から3年間
(「症状固定」とはこれ以上はよくならないとされる状態をいいます。)
となっています。

時効までの期間を正確に把握し、気付いたときには時効が成立し、損害賠償の請求ができないといった事態にならないよう気をつけましょう。

(参考)損害賠償を請求できる根拠

そもそも、なぜ、加害者が損害賠償責任を負うことになるのでしょうか?

それは民法で、不法行為によって他人に損害を与えた場合は損害賠償責任を負う、と定められているからです。

しかし、この規定では、加害者に非があること、つまり加害者が交通事故という不法行為を行ったことを、被害者が証明(立証責任)しなければならず、被害者にとって負担が大きく酷でした。

そこで、被害者救済を目的として、「自動車損害賠償保障法(自賠法)」が制定されました。
この法律では、立証責任は加害者が負うものとし、加害者は、自らが起こしてしまった交通事故について過失がなかったこと等を加害者自身が立証しない限り、損害賠償責任を負うこととしました。

さらに、損害賠償責任を負う者の範囲を、運転手だけでなく運行供用者にも拡げて被害者保護をすすめました。