傷害事故

人身事故のうち、被害者が心身に傷害を負った事故のことを「傷害事故」と呼びます。

ここでは、傷害事故における損害賠償について説明します。

傷害事故とは?

被害者が怪我をしたり、死亡する結果になってしまった事故を人身事故といいます。
そのうち、被害者が怪我をしたが死亡には至らなかった事故「傷害事故」と呼び、被害者が不幸にも亡くなった「死亡事故」とは区別しています。

さらに、傷害事故には、怪我が完治した場合と、後遺症が残ってしまう場合の2つのパターンがあります。ここでは怪我が完治した場合について説明します。
(後遺症が残る場合はこちらを参照ください。)

傷害事故における損害とは?

後遺障害が残らなかった障害事故では、次に説明する「財産的損害」「精神的損害」について損害賠償を請求する権利が認められています。精神的損害は通常、慰謝料と呼ばれているものです。

財産的損害には、事故に遭ったことで実際に支出することになった損害「積極損害」と呼びます)と、事故で怪我をしたことにより、仕事を休まざるを得なくなったことによる損害「消極損害」と呼びます)があります。

積極損害と消極損害

積極損害

傷害事故における積極損害としては、具体的に以下のものが挙げられます。

・医療関係費
交通事故で怪我を負った場合、まず、その怪我の治療が必要となります。
通常、怪我の治療のためには、医師による診療が必要です。
場合によっては、手術が必要となることもあるでしょう。

これらの費用は損害として認められ、原則として実費に相当する額が損害額となります

・入院関係の費用
怪我の程度により、入院が必要となることがあります。
入院に関する費用も損害として認められます。

具体的には、
・付添いにプロを雇った場合は、支払った実費が損害として認められます。
近親者が入院に付添う場合は、6,500円を基準に、事情を考慮して判断されます。
・入院中の雑費として、1日当たり1,500円前後が認められています。

・通院関係の費用
傷害の診療や治療のために、病院に通院しなければならない場合もあるでしょう。
この場合、診察代のほかに、通院のためにかかった交通費についても損害として認められます。タクシー代についても、必要性があれば認められます。

その他、次のような費用も損害として認められます。
・装具の費用(義肢代、コルセット代、義歯代など)
・車いす代
・住宅を改造するのにかかった費用
・医師に対する謝礼
・損害賠償のための費用(診断書の費用・弁護士費用など)

消極損害

傷害事故における消極損害としては「休業損害」が認められます。

休業損害とは、交通事故で怪我をしたことにより、仕事を休業せざるを得なくなった場合、その間得られるはずであった収入を損害としてとらえるものです。

傷害事故では、この休業損害が大きなウェイトを占めるケースが多いです。

休業損害には、主に2つの算定方法があります。
自賠責保険基準を使う方法と裁判所基準を使う方法です。

・自賠責保険基準
被害者の方へ最低限の保険金の支払いを定めた自賠責保険の基準です。
この基準では、休業損害は、実際に休んだ日数1日当たり5,700円が原則となります。
したがって、休業損害の額は、次の計算式で出すことができます。

  • 休業損害 = 5,700円 × 休業日数

もっとも、例外的に、1日の収入額が5,700円を超えると認められた場合には、その実際の額を1日当たりの金額として損害額を算定することができます。

・裁判所基準
裁判所基準は、弁護士が加害者側と交渉するときに使用する基準です。
この基準では、休業損害は、1日当たりの基礎収入に休業日数を乗じて計算します。
したがって、休業損害の額は、次の計算式で出すことができます。

  • 休業損害 = 1日当たりの基礎収入 × 休業日数

計算式自体は難しくはありませんが、基礎収入や休業日数の決め方は複雑です。

まず、基礎収入は業種ごとに基準が異なります。

例えば、サラリーマンの場合は、事故前の給与を、
自営業者等の場合は、前年度の年収を基準にして計算します。
主婦の場合は、女子労働者の平均賃金を基準にします。
子供や学生の場合は、働いていないので休業損害は認められません。

休業日数については、入院している期間については、当然、休業日数に含まれることになります。入院している以上、仕事を休業しているのは明らかだからです。

休業日数で問題となるのは、退院後、仕事に復帰するまでの通院期間です。
復帰前でも、就業可能となれば、そこまでの期間が休業日数となります。

精神的損害

傷害事故の場合でも、当然、慰謝料を請求することはできます。
慰謝料は以下の3つの算定方法があります。

精神的損害

・自賠責保険基準
被害者の方へ最低限の保険金の支払いを定めた自賠責保険による基準です。
自賠責保険における基準では、完治まで1日につき4,200円が認められます。

・任意保険基準
任意保険については、各保険会社によって慰謝料の支払い基準が異なります。
実際には、自賠責保険基準よりも高額ではあるものの、次の弁護士会基準よりは低額です。

・弁護士会基準
弁護士が裁判所の判例等をもとに定めた基準です。
弁護士会基準は、3つの基準の中で最も高額となっています。
例えば、入院1か月で退院した後、通院を1か月で完治した場合の入通院慰謝料は、47万円~88万円を基準として計算されます。

加害者が任意保険に加入していれば、加害者側の保険会社が任意保険基準に基づいた額で交渉に臨んできます。しかし、これは弁護士会基準を通常下回るため、弁護士に依頼することで増額できる余地があります。