死亡事故

人身事故のうち被害者が亡くなった事故を死亡事故と呼んでいます。

ここでは,死亡事故における損害賠償請求について説明します。

死亡事故における損害とは?

傷害事故・後遺障害事故・死亡事故と3つのパターンがある人身事故のなかでも、死亡事故は最も重大な事故です。

死亡事故における損害

人の命が犠牲になりますが、その損害は、お金による賠償で行われることになっています。結果が重大なことから、金銭に換算した場合、他のパターンと比較して損害賠償額も多額となる点が特徴です。

なお、死亡事故の場合の損害賠償請求は、次に説明する「財産的損害」「精神的損害」について認められます。精神的損害は通常、慰謝料と呼ばれているものです。

財産的損害とは?

財産的損害とは経済的な損害のことで、大きく2つの損害に分けられます。

1つは、「積極損害」と呼ばれ、交通事故に遭ったことによって余儀なくされた支出です。交通事故に遭わなければ支出する必要がなかった費用とも言えます。
死亡事故の場合、多くの支出を余儀なくされるため、この損害が認められています。

もう1つは、「消極損害」と呼ばれ、本人が事故に遭わなければ元気に働くことで得られたであろう収入のことです。

積極損害

死亡事故における積極損害としては、具体的に以下のものが挙げられます。

積極損害

・葬儀関係費用
まず葬儀関係の費用が挙げられます。
例えば、通夜・告別式などの費用がこれに含まれます。

これについては次の3つの支払い基準があります。

・自賠責保険基準
被害者の方へ最低限の保険金の支払いを定めた自賠責保険による基準です。
葬儀費用として60万円までは支払われます。
これ以上の支出については、100万円までは必要な実費のみが認められます。

・任意保険基準
各保険会社が独自に設定した額となります。自賠責保険基準より高めです。

・弁護士会基準
弁護士が裁判所の判例等をもとに定めた基準です。
原則として150万円となります。

加害者が任意保険に加入していれば、加害者側の保険会社が任意保険基準に基づいた額で交渉に臨んできます。しかし、これは弁護士会基準を通常下回るため、弁護士に依頼することで増額する余地があります。

・治療関係の費用
死亡事故の場合でも、被害者が即死する事故でなければ、治療関係の費用が掛かるため、この費用も損害として請求することができます。

その他、次のような費用も積極損害に含まれます。
・入院関係の費用(入院費・付添看護費など)
・通院のための費用(交通費・宿泊費など)
・義肢などの装具の費用
・損害賠償請求のための費用(診断書の費用・弁護士費用など)

消極損害

消極損害とは、交通事故に遭うことにより失われてしまった、将来得られるはずであった利益を損害としてとらえるものです。これには、「休業損害」「逸失利益」の2つがあります。

・休業損害
休業損害は、交通事故によりケガをしてから亡くなられる時点までに、休業を余儀なくされた場合に,その間の減収を損害とするものです。

即死の場合は、休業期間がありませんので休業損害は生じません。
得られる予定だった収入は、全て、次の「逸失利益」として計算されることになります。

・逸失利益
逸失利益は、亡くなった被害者が、もし生きていたら将来得られたであろう利益を損害とするものです。

逸失利益

死亡事故の場合には、被害者はもう働くことはできませんが、もし生きていたならば働いて得られるはずだった収入を算出して、その額を加害者に支払わせることにより、損害を金銭的に補おうとするものです。

この逸失利益は、かなり高額となります。

算出方法は、その人が得られたであろう年収から生活費にあたる部分を差し引いて、仮に生存していれば働くことができた年数(以下の計算式中の「ライプニッツ係数」と呼ばれるもの)を掛け合わせることとなります。

計算式は、以下のようになります。

  • 年収 × (1-生活費控除率) × 就労可能年数に対応するライプニッツ係数

年収については、
サラリーマン等の場合は事故前の給与を、自営業者等の場合は収入証明書を基準にします。また、家事従事者や年少者の場合は男子または女子労働者の平均賃金を基準にします。

生活費控除率については、
一家の支柱の場合は30~40%、そうでない場合、女子であれば30%、男子であれば50%とします。

就労可能年数については、
原則は死亡時から67歳まで、未就労の幼児などは18歳から67歳までとします。

精神的損害

死亡事故においては、まず、亡くなった方自身の精神的苦痛に基づく慰謝料が認められます。この慰謝料を請求する権利は相続財産となり、実際には、相続人によって請求されることとなります。

さらに、父母・配偶者・子どもなど近親者の方は、相続した慰謝料を請求する権利のほかに、近親者固有の慰謝料請求権を持つこととなります。なぜなら、家族が亡くなることで、残された者は相当な精神的なダメージを受けるためです。

死亡事故における慰謝料の基準もパターン化されており、それぞれの基準ごとに支払い基準額が定められています。

・自賠責保険基準
自賠責保険における死亡事故の慰謝料は、本人固有の慰謝料が350万円となっています。

近親者の慰謝料は請求する人の数によって変わってきます。
請求権者が1名であれば550万円、2名であれば650万円、3名であれば750万円となります。被害者に被扶養者がいる場合には、さらに200万円が加算されます。

なお、こちらの慰謝料を請求する権利のある者は被害者の父母、配偶者および子どもとされています。

・任意保険
任意保険については、各保険会社によって慰謝料の支払い基準が異なります。
ただ実際には、自賠責保険基準よりも高額ではあるものの弁護士会基準よりは低額です。

・弁護士会基準
弁護士会基準は、3つの基準の中で最も高額となっています。
具体的には、一家の支柱の場合は2800万円、一家の支柱に準ずる場合は2400万円、その他の場合は2000万円~2200万円となっています。

「一家の支柱」とは、被害者の家庭の生計を維持すべき収入の大部分を得ている人です。その人が亡くなることによって、その家庭の生活が著しく困難になる人をいいます。

こちらも先に述べた積極損害と同様、弁護士に依頼することで保険会社の提示額を増額できる余地があります。