過失相殺

交通事故の損害賠償額は、必ず全額支払われるというわけではありません。
そこには、「過失相殺」という考え方が影響を及ぼしています。

ここでは過失相殺について説明します。

不法行為責任とは?

過失相殺を理解するためには、
「不法行為による損害賠償がなぜ認められるのか?」
ということをはじめに知っておくと理解しやすくなります。

民法では、不法行為によって他人に損害を与えた場合は、損害賠償責任を負うこととなっています。交通事故によって、他人を死傷させたり、他人の車を傷つけたりした場合も不法行為にあたります。

損害を被害者と加害者で公平に負担する

では、なぜこの不法行為責任を追及することが認められているかというと、もちろん被害者の保護もその理由の一つですが、一番の理由は、起きてしまった損害を被害者と加害者で公平に負担するというところにあります。

そして、公平を目指すという視点から考えると、被害者側にもいくらか落ち度がある場合、加害者に全責任を負担させるのはかえって不公平となってしまいます。

そこで、被害者側にも過失があるという場合には、それを損害賠償から差し引くことで、公平な負担を図ることにします。これを過失相殺といいます。

過失相殺とは?

上述のとおり、過失相殺は、「損害の公平な負担を図る」という目的を持った制度です。

民法では、被害者に過失があったときは、裁判所がこれを考慮して損害賠償の額を定める(調整する)こととなっています。

具体的には、被害者側の過失の程度に応じて損害賠償額を減額します。
被害者側の落ち度が大きければ、損害賠償額も大きく減らされることになります。

過失相殺の判断基準

過失相殺の基準については、法律で決められているわけではなく、最終的には、裁判所で判断してもらうしかありません。

しかし、それでは個々のケースでばらつきが出てしまい、かえって不公平となる恐れがあります。

そこで、交通事故の場合、過去に多数の裁判例が出されているので、それをもとに一定の基準が作られています。したがって、実際にはこの基準に沿って過失相殺が行われます。

なお、過失相殺が問題となるのは、主に任意保険においてです

自賠責保険では、被害者に最低限の賠償を保障するという目的があり、支払われる保険金額も決して高額ではありませんので、被害者に重大な過失があるときしか過失相殺をしないことになっているからです。

過失割合とは?

一般的に過失相殺をする場合には、被害者及び加害者の過失の程度を、何割対何割というように割合的に把握して、損害賠償額を調整することになります。

この過失の程度の割合のことを「過失割合」といいます。

交通事故の損害賠償請求の場合も、過失割合によって損害賠償額が調整されます。

例えば、損害額が1000万円で、過失割合が、加害者が7割で被害者が3割とすると、被害者の3割分が減額されて、700万円の損害賠償額となります。

過失割合を決めていく順序ですが、まず過失割合の認定基準は事故のパターンごとに決められています。事故のパターンは、次のように事故の当事者ごとに分けられます。

過失割合の認定基準

・歩行者と四輪車の事故
・四輪車同士の事故
・自転車と四輪車の事故など


そして、事故が起きた場所によって過失の基本割合が決まります。

その後、細かい条件ごとに修正を行っていき、最終的な過失割合が決定されます。
過失割合を修正していくポイントとしては、例えば次のポイントなどが挙げられます。

【歩行者と四輪車の事故の場合】
・事故の発生時間が夜間であった。(歩行者の過失大)
・横断禁止のところを渡っていた。(歩行者の過失大)
・歩行者が子供である。(歩行者の過失小)
・歩行者が高齢者である。(歩行者の過失小)

【四輪車同士の事故の場合】
・交差点の見通しはどうか。
・どちらかに速度違反があったかどうか。
・きちんと合図を出していたかどうか。

【自転車と四輪車の事故の場合】
・自転車の運転者が子供や高齢者である。(自転車の過失小)
・自転車・四輪車のどちらかに重過失等があるか。

では、具体例をもとに過失割合を見てみましょう。

歩行者と四輪車の事故の場合における過失割合

歩行者と車の事故の場合での歩行者の過失割合です。

【横断歩道での事故の場合】
・歩行者は、青信号で渡っていて、そこに車が赤信号で突っ込んできた
歩行者の過失割合は0%
・歩行者が、赤信号にもかかわらず渡っていて、そこに車が青信号で進入した。
歩行者の過失割合は70%

【バック中の車による事故の場合】
・歩行者が、バック中の車のすぐ後ろを横切った場合
歩行者の過失割合は20%

【横断歩道以外での路上での事故の場合】
・歩行者が、夜間、道路上に寝転がっていた
歩行者の過失割合は50%

四輪車同士の事故の場合の過失割合

さらに、四輪車同士の事故の場合の過失割合を見てみましょう。

【交差点での直進車同士の事故の場合】
・青信号で通過中の車Aと赤信号で突っ込んできた車Bの場合
Aの過失割合は0に対し、Bの過失割合は100%