示談による解決

交通事故の損害賠償の話し合いは、大多数が「示談」によって行われています。
示談とは、裁判所とは関係のないところで、被害者と加害者が話し合うことをいいます。

ここでは、示談についての概要と、示談を進める際の心構えについて説明します。

示談とは?

示談は当事者同士の話し合いをいいます。
加害者に対して損害賠償を請求する方法としては、これが基本となります。

示談

裁判所が関与しない話し合いですが、この話し合いの結果をまとめた示談書を公証役場で「公正証書」という文書にしておけば、裁判による判決と同じ効力を持たせることができます。相手が約束を守らない場合は、相手の財産を差し押さえるといった強制執行が可能になります。

示談は法律上は「契約」の一種なので、合意した内容についてお互いに守る義務が生じます。原則として示談のやり直しはできないため、この点は注意が必要です。

例外的に、後遺障害があることが後から明らかになった場合は、その分の損害賠償を増額して請求することができます。

示談は当事者間の話し合いで解決を目指すので、最も迅速で、双方の事情に応じた合意をすることができるメリットがあります。
ただ、話し合う際に気を付けなければならないのは、お互いについ感情的になりがちという点です。これは示談のデメリットです。

これを補完するものとして、保険会社による示談交渉代行サービスがあります。

示談代行サービスとは?

任意保険には、対人賠償保険などの多くの商品に「示談交渉代行サービス」がついています。
これは、任意保険の加入者、つまり、交通事故の加害者に代わって、保険会社の担当者が被害者との示談交渉を代行するサービスです。

被害者の立場から言えば、加害者本人でなく、保険会社の担当者と交渉をしていくことになります。

このサービスでは、素人である当事者同士が話し合うよりは、早く損害賠償金が支払われることになるため、その点はメリットといえます。

しかし、保険会社の担当者はあくまで保険会社寄りの立場になるため、保険会社の担当者と対等に渡り合えるスキルが被害者になければ、特に賠償金の金額について、納得がいかない結果となる可能性があります。

示談を始める時期はどの段階が良いか?

示談交渉を始めるタイミングは、損害額が確定してからが大原則です。
示談交渉は原則としてやり直しがきかないため、損害額が確定してからでないと始めてはいけません。

示談交渉は損害額が確定してから始める

傷害事故の場合を例にとると、後遺障害の有無がはっきりした、あるいは、後遺障害の程度がはっきりした時点が挙げられます。

したがって、加害者側から早めに示談交渉を進めたいと急かされても、それに合わせる必要はありません。

また、交渉を始めるまでに少し時間をおくことで、メンタル面へのメリットもあります。
事故直後は、誰しも気が動転しているものです。
事故から少し時間が経てば、気持ちも落ち着き、交渉事に必要な冷静さを取り戻すことができるようになります。

では、次に交通事故の種類ごとに見ていきます。

・傷害事故の場合
入院中や、退院後の通院中など、また怪我の治療が終了していない時点では、示談交渉を始めるには時期が早いでしょう。

治療終了の判断は、必ず医師の判断を仰ぎましょう。決して自己判断してはいけません。
後遺障害があとから発見される可能性もあるからです。

医師から治療終了のお墨付きをもらったら、示談交渉を開始しましょう。

・後遺障害事故の場合
後遺障害がある場合は、症状固定という段階になり、かつ障害等級が確定してから示談交渉を始めます。

症状固定は、交通事故によって負った怪我がこれ以上はよくならないという状態をいいます。障害等級は障害の度合いを表すもので、症状固定の段階にならないと決まりません。

損害賠償金は等級ごとに決められています。したがって、どの等級に該当するかは、損害賠償の額に大きく影響してきます。
自身の後遺障害が、どの等級に該当するかの証明は素人では難しい面もあるため、弁護士といった専門家の手を借りて行うことをおすすめします。

・死亡事故の場合
この場合は、残された遺族が示談交渉を行っていくことになります。
被害者が亡くなられた時点で、損害ははっきりしているのですが、あせることはありません。
まずは気持ちを落ち着かせることに専念してください。
49日の法要が済んだ頃から、示談交渉を始められるとよいでしょう。

示談と消滅時効

民法では、損害賠償を請求する権利は、被害者が損害および加害者の存在を知った時から3年で消滅するとされています。
また、加害者が誰かわからない場合も、被害にあったときから20年が経過すると自動的に損害賠償を請求する権利は消滅します。

示談交渉の場合も、加害者から消滅時効を主張される可能性があることに気を付けておく必要があります。

示談交渉をする際の心構え

最後に、示談交渉をする際に必要な心構えについて説明します。

示談交渉をする際の心構え

・冷静さを保つことが大切
被害者側としては、保険会社の担当者と交渉することに納得がいかない思いを感じる方もいらっしゃると思います。
また、担当者に対して、加害者の代わりに謝罪や見舞いを求めたくなることもあるでしょう。
しかし、担当者は示談交渉の代理人であり、謝罪の代行者ではありません。
したがって、そこのところは冷静に対応しましょう。

・加害者と加害者の代理人との関係を確認しましょう
保険会社の担当者であれば通常は問題ありませんが、それ以外の人が登場した場合は注意が必要です。
加害者本人からきちんと代理を頼まれているのかを確認し、関係のない者と話し合うことがないようにしましょう。

・交渉の前に、交通事故の損害賠償に関する知識を身に着けておきましょう
通常、被害者側は素人ですが、担当者は交渉のプロです。
相手のペースに巻き込まれないように注意しなければいけません。
そのためには、事前に、法律知識を有する第三者からアドバイスをもらって必要な知識を身に着けておくことが大切です。
そういった理由で、相談先としては弁護士がふさわしいでしょう。

・専門家の協力を得ましょう
交渉事はなんといっても、精神的にも時間的にも消耗します。
不慣れなことが続きますので、疲れを感じることが出てくると思います。
そういった時は、専門家の力を借りることを検討しましょう。
かかった費用を差し引いても、得るものは大きいです。

・証拠をそろえておきましょう
交渉事において、こちらの主張を相手や第三者に納得させるためには、客観的な証拠が必要となってきます。
交通事故の場合は、診断書や領収書、こちらの収入を証明する資料などをそろえる必要があります。